ん? 何この学校で恐い担任が朝、教室に入ってきて静まり返るのと同じ感じは……。見た目は可愛らしい美少女なのに? そんなに、お貴族様は権力があるのかな? あ。警備兵って、もしかして領主兵だからかな? それでミリアは領主の娘で雇い主の娘だから?
「すみません……ミリア様」
お偉いさんが恐縮したように呟いた。
「ふんっ! 1日に、わたくしの大切な方を2回も捕らえるなんて、わたくしに対しての嫌がらせなのかしら……」
ミリアは顔を曇らせ、明らかに不機嫌な様子で言った。その声には、怒りの感情が込められている。
「そのような事は決してありません! どうかお許しを……」
お偉いさんは顔面蒼白になり、必死に弁解する。
「まぁ……俺みたいな子供がアクセサリー店に入ったから怪しまれて当然だよな」
俺は場を和ませようと、軽い調子で言った。
「何を仰っているのかしら? わたくしだって、たまにですがアクセサリー店に入りますわよ?」
ミリアは、きっぱりと言い返してきた。
「それはミリアがお金持ちだって皆が知ってるからでしょ? 俺みたいなお金が無さそうな格好で入ればね……頭が良いミリアなら分かるんじゃない?」
俺がそう指摘すると、ミリアの表情が一瞬和らいだ。しかし、すぐにまたご立腹になった。
「それでも捕らえた兵士は許せませんわっ。もぉ!」
ミリアは足を踏み鳴らし、不満を露わにする。連れてきた兵士の顔色が悪くなって座り込んでしまった。その体は震えている。
ん? 死ぬわけでも無いのに、そこまで怯える事なのか? それとお偉いさんも顔色が悪くなってるけど? 何か罰でもあるのか?
そこまで怯える意味が分からないけど俺のせいなんだよな。はぁ……あまり気乗りしないけど……。
「えっと……ここの責任者って、あなたですか?」
俺は総隊長に尋ねた。
「はい。ここ町の警備兵の総隊長です」
「じゃあ……皆に合図をするまで目を閉じて貰っても? お願いではなく、命令でお願いします」
俺は少し強めに言ってみた。
「ユウヤ様? わたくしもですか?」
ミリアは、きょとんとした顔で俺を見上げた。
「……そうだな……。ミリアも目を閉じててくれる?」
「は、はい……わかりました」
ミリアは素直に頷き、ゆっくりと目を閉じた。さて、どうしたものか……。
「皆、作業を止め目を閉じる事を最優先しろ! これは命令だぞっ! 従わぬ者は厳罰に処する!」
警備兵の総隊長の怒鳴り声が響き渡る。兵士たちは一瞬戸惑ったものの、総隊長の真剣な表情と声色に、次々と目を閉じていく。その場に静寂が訪れる。
皆が目を閉じたのを確認した。俺はミリアの、ぷにぷにっとしてそうな頬にそっとキスをした。見た目通りにプニッとした感触で柔らかく、スベスベして甘い良い匂いがしてきた。
「きゃっ♡ わぁ……♡ うふふ……っ♪」
ミリアは小さく声を上げ、頬を紅潮させて身をよじる。その様子は、まるで花が綻ぶようだ。
「ミリア様! 大丈夫ですか!?」
総隊長の焦った声が聞こえた。
「大丈夫ですわ♡ 何でもありません。目を閉じてなさい! 問題ありませんわっ!」
ミリアは、頬は赤いままながらも、毅然とした声で言い放った。その声には、先ほどの甘えた様子とは打って変わって、貴族としての威厳がにじみ出ている。
俺はミリアの耳元で小声で聞いてみた。
「機嫌は直った?」
「うぅ~ん……まだですわ……えへへ……♪」
ミリアは顔を赤くしたまま、にこやかに答える。笑顔だし、機嫌は直ってる気がするけど?
「もう一度お願いしますわぁ♡」
ミリアはさらに甘えた声を出し、俺を見上げてきた。
「はぁ……」
俺は照れ隠しで、わざとらしくため息をついて、もう一度長めに頬にキスをした。今度は少しだけ、甘い紅茶の香りが口の中に広がるような錯覚を覚えた。一応言っておくけど……前世も含めて女の子にキスをしたの初めてだからね? 前世でも彼女居なかったし……。
ミリアの肩を掴むと、彼女はビクッと体を反応させ、俺の方へ赤くなった頬を向けるので、俺まで緊張してきた。音を立てないように、唇をミリアの頬に当てる。しばらくミリアの頬の柔らかくスベスベした感触を味わった。
「もう良いでしょ?」
俺が尋ねると、ミリアは満足そうに目を細めた。
「はいっ♪ とっても満足ですわぁ♡」
ミリアは機嫌が直り、ニコニコの笑顔になっていた。その笑顔は、まるで春の日差しのように明るい。
「もう目を開けても良いですわよ……はぅ……♡」
ミリアがそう告げると、総隊長が恐る恐る目を開けた。
「何をされたんでしょうか?」
総隊長は、怪訝な顔で尋ねてきた。
「目を閉じてと言った意味が分からないのですか? あなたは……! それでも警備兵の総隊長なのですか? まったくっ!」
せっかく機嫌を良くしてたのに総隊長さんは余計なことを言って……ミリアは再びご立腹だ。総隊長の顔色が、みるみるうちに青ざめていく。
「……失礼しました。秘密の為にですね……」
総隊長は言葉を濁した。
「許してあげてね?」
俺はミリアに笑顔で促した。
「ううぅ……はい……」